腕時計のケースを製造するには、ケース形状を鍛造や切削で金属素材から成形し、必ず「研磨」というケースを磨く工程が入ります。
鍛造では表面は荒れた型肌の状態ですし、切削では切削痕が残ったままになってしまいますが、その表面を滑らかに磨いて整えるのが研磨です。
その「研磨」工程の種類の1つに、今回ご紹介する『ザラツ研磨』があります。
スイスのザラツ兄弟社の製造していた研磨機を使って研磨を行うことから『ザラツ研磨』と呼ばれ、それを日本で使い続けてきたブランドがグランドセイコーです。
ザラツ研磨は1960年代に初めて採用された時も、それから50年以上たった現在も、熟練の職人の手作業によって施されます。
「燦然(さんぜん)と輝く腕時計」を実現するために必要不可欠な研磨手法が『ザラツ研磨』です。
【特徴・魅力】
ザラツ研磨で磨き上げてきた鏡面は、平面が広くて歪みが無く反射し、光と影の美しさを一層引き立てます。
反射に歪みが無いというところが特徴で、時計の立体感やきらびやかさは最上の仕上がりとなる研磨技術です。
鏡面が整うことでエッジも立ち、均整的な美しさが完成されますので、そういった外装が好きな人にはとても魅力的に映ることでしょう。
ザラツ研磨のすごさは、限られた職人しか使いこなすことができない難易度にあります。
アタッチメントと呼ばれる機材に磨く前のケースをセットし、高速で回転する研磨剤付きの回転盤などに押し当てて平滑面を磨き出します。

アタッチメントは左右の回転方向に可動でき、前後に移動できる車輪がついています。これは、車のハンドルに前後に動く車輪がついているようなイメージです。
非常に複雑であり、形状をよく理解した職人が一定の力で手を動かしながら押し当てる技量が必要です。
20以上もあると言われる研磨工程の中でも、ザラツ研磨は特に職人技が必要とされる研磨技法と評されます。
【手順】
- 鍛造によりケースを成形する
- 切削加工で内径や外径を削り出す
- ザラツ研磨技法で外観を整える
- バフ掛けを実施し光沢を出す
- ヘアラインを施す
ザラツ研磨は3の段階にあたり、最終的にはバフで磨かれるものになりますので、直接目にする仕上げではありませんが、この工程を通るかどうかで仕上がりは全く異なります。
また、グランドセイコーを製造するセイコーエプソンに関わる記述をみると、ステンレススチールを磨く場合とチタンや18Kゴールドを磨く場合では1.5倍の時間がかかり、プラチナは5から6倍の時間をかけているとあります。
ザラツ研磨によって腕時計のケースにゆがみのない平滑な面を施すことで、鏡面に仕上げた後でも稜線のシャープさが損なわれず、グランドセイコーは美しく輝くのです。
グランドセイコーのデザインも進化している中で、機械以上に熟練の職人の経験と感覚がなければ、グランドセイコーのケースは作れません。